ここ一か月間の、諸外国の政治情勢の中で注目すべきは、ニュージーランドにおける銃乱射事件と相変わらず続くEU離脱協定をめぐるイギリス政治の混乱である。
3月15日(金)、ニュージーランド南部のクライストチャーチで、イスラム教の礼拝所であるモスク2カ所でオーストラリア出身の男が中にいた人たちに発砲し、50人が死亡、負傷者を含めると100人以上の被害者が発生した。白人至上主義者の自称する被告の男は、オーストラリアの小規模自治体でスポーツインストラクターを務めていたが父の死を契機に退職、「世界中を旅していろいろな人に知り合いたい」と考えヨーロッパやアジア諸国を旅行したことが、彼を完全に変えてしまったと報道されている。特にヨーロッパ諸国において、移民の多さに「白人と土地が移民に奪われる」と恐怖感を持ったとのことである。今回の事件で被害が拡大したのはニュージーランドにおいて銃規制が緩かったことが原因であるが、同様の犯罪が今後も世界で起こることが懸念される。
しかしながらアメリカのトランプ大統領は、事件を受け白人至上主義が広がってきているのではないかという報道陣からの質問に、これは「重大な問題抱える少数派の問題だ」と否定した。これまでもトランプ大統領は、2017年にバージニア州シャーロッツビルで白人至上主義団体とそれに反対する市民団体が衝突し反対派から死者が発生した事件に関しても、責任は両方にあると主張するなど、白人至上主義者擁護と非難される行動を繰り返してきた。トランプ氏の支持基盤の中心は白人保守層であり、その中でもより保守的な層からの支持が強いことを考えれば今回の発言も想定の範囲内だと言える。しかしながら、アメリカの大統領が銃規制にも白人至上主義にも危機感を持たない状況では、アメリカ国内を含めてこうした事件がいつ再発してもおかしくはない。
次にEUからの離脱期限が4月12日に延長されたイギリスの政治状況も相変わらず混乱している。メイ首相は、既に2回下院議会で否決されたEU離脱協定案を再度議会下院に提出する予定で、同協定案が可決されれば辞任すると表明した。メイ首相は、自らの退陣を表明することでこれまで協定案に反対してきた与党保守党内の強硬離脱派に翻意を促しているが、依然として可決は厳しい状況だ。何故ならば、党内の強硬離脱派は土壇場になってメイ首相の離脱案に賛成しつつあるが、閣外協力をしている北アイルランドのプロテスタント系地域政党である民主統一党(DUP)は、協定案におけるアイルランド国境問題の安全策に反対しているため、協定案への反対を表明したからである。さらに、バーコウ下院議長は協定案の内容が前回否決されたものと実質的に同じなら採決を認めないと表明しており、採決自体が行えない可能性もある。
問題なのは、メイ政権は実質的に少数政権になっており議会を掌握できる可能性が低いにもかかわらず、現状ではメイ政権を打倒することもできないという、まさに宙ぶらりん(ハング・パーラメント)状態が続いていることである。与党保守党はそもそも過半数割れしているが、DUPの閣外協力によりメイ政権はなんとか表向き下院の多数派を掌握している(ことになっている)。しかしながらメイ首相は、政権の最大の課題であるEU離脱問題に関して、これまで保守党内の強硬離脱派からもDUPからも支持を得られてこなかった。もちろん、最大野党の労働党は与党案を支持せず、メイ内閣の退陣・解散総選挙・2回目の国民投票を求めている。ところが党内強硬離脱派もDUPも内閣不信任案には同調しないので、現状打開の見通しがないにもかかわらずメイ内閣は存続してきたのである。
今回も政権提出の協定案が可決されなかったとしても、非常に頑固な性格のメイ氏が責任と取って辞任するかは未知数である。この後もどんでん返しが起こりうることから事態を予測するのは難しいが、合意なき離脱の可能性が高くなっていることは事実である。一方で、次の総選挙はまだ3年以上先のことであることから、このまま3年以上もずるずると離脱延期が続くという可能性もゼロとはいえない。
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