選挙と政治にフォーカスした深掘りウェブニュースメディア「TheVote.jp」、ジャッグジャパン株式会社提供免責事項お問い合わせ・情報提供

築地市場移転まであと半年 残された課題は?

空から眺める

空から眺める

「築地市場」の名で親しまれてきた「築地中央卸売市場(東京都中央区)」が、2016年11月豊洲へ移転する。今回は、移転にまつわる動向をまとめながら築地・豊洲エリアの将来を考えていきたい。

「築地」とは

築地市場は1935年(昭和10年)に現在の位置で開設された(当時、京橋区築地)。以来80年以上に渡って、東京のみならず日本の水産物取引の中心を担ってきた。銀座の繁華街が近く、飲食店が掲げる「築地で仕入れた(素材)」のフレーズは鮮度と味のよさを示す代名詞の一つにもなっている。

なぜ移転するのか?現在地で再整備はできないのか?

理由としてあげられるのは「キャパシティの限界」だろう。築地市場は2005年の取扱量が2,140トンで全国一位になるなど、日本を代表する卸市場であり続けている。流通機構の変化による輸送量増大への対応や、建造物老朽化への対応については長らく討議されてきた。
1988年には現在の場所にて14年程かけて再整備する計画が策定された。だがしかし、1992年に再整備工事が着手されたものの、5年後には中断されてしまった。理由として、予算見込みが甘かった(再試算の結果工事費が1.4倍も増加した)ことや営業活動への深刻な影響が懸念され業界での調整が難航してしまったことなどがあげられている。また、仮に工事に問題がなかったとしても敷地面積には限りがあるため利便性の向上には僅かな効果しか期待できなかった、とする見方もある。その後東京都は方針を変更し、1998年以降は臨海部への移転を模索、2004年に「豊洲新市場基本計画」を策定した。

なぜ豊洲になったのか?

市場移転先の条件として、東京都は下記の3点をあげていた。

1. 敷地が狭隘で、抜本的な施設改善が困難な築地市場に対し、高度な品質管理・衛生管理ができる卸・仲卸売場に加え、物流の効率化を図るための広い駐車場や荷さばきスペースを配置できる約40ヘクタールのまとまった敷地が確保できること
2. 大消費地である都心部の周辺で、輸送時間やコストの観点から高速道路や幹線道路にアクセスしやすい交通条件の良好な位置にあること
3. 築地がこれまで築き上げた商圏に近く、機能・経営面で継続性が保てる位置にあること

当初の候補地としては「豊洲」以外にも「晴海」「有明北」「IHI豊洲工場跡地」「中央防波堤内側(現、海の森公園)」の計5地区が考えられていたが、先にあげた「用地・交通・商圏」の全てを満たすエリアが豊洲しかなかったとしている。

豊洲用地の安全性はどうなったか?

移転先の用地にはかつて東京ガスの施設があり、都市ガスの製造工場として稼働していた。そのため、操業に由来する物質による土壌及び地下水の汚染が確認されている。この件については事前に東京ガスから東京都側へ説明がなされており、都は承知していたとされる。
都は2010年に豊洲の市場予定地で浄化の実証実験を行っており、このデータを参考に、汚染物質はすべて除去可能であると明言している。

11月移転に向けた課題は?

築地市場の市場業者はそれぞれの業界ごとに団体を組織しており、6団体のうち1団体(水産仲卸組合)は、移転について未だ合議していない(5月現在)。5月21日には市場内でシンポジウムを開き、登壇者らは「移転予定の11月は年末に向かうかきいれどきで、業務業績への影響は計り知れない」「仲卸の店舗スペースが実情に見合っていない」などの課題をあげた。新市場開場日の見直しなどを求める意見書を農林水産省へも提出している。仲卸業者は場内では「せり」を行うなど取引でも核となる重要な役割を担っていることから、今後の動向が注目される。

移転しない、もう一つの築地「場外市場」

築地は、「場内」と呼ばれる市場機能そのものと「場外」と呼ばれる隣接した商店街の二つのエリアによって構成されている。場内市場は業者販売を前提とした施設であり、卸市場としての役割が午前中でほとんど終わるほか、日曜日・祝日は基本的に休市となる。現在は場内であっても朝方から観光客の姿が多く見られるが、元来、観光客や一般客を相手にしてきたのは場外の店たちであり、この商店街が観光地としての築地の文化を生み出してきた。
だが、今回市場機能が豊洲へ移るにあたって、この「場外」が移転することはない。豊洲市場にも民間人が運営できる商業施設を作る計画はあるが、まだ計画段階であるとのこと。今後、市場の賑わいを求めてやってくる観光客がどのような動きをするのかはまだ未知数である。
一方、中央区では「築地市場の移転後も食文化の賑わいを将来に向けて継承する」として11月以降も”築地で鮮魚を仕入れできるよう”に、「築地魚河岸」という施設を開設する見込みだ。こちらは場外駐車場跡に新しい施設を作る予定で、10月15日スタートを予定している。公式発表でも「開場」という表現をしていることから、「築地の場内(市場機能)は、小規模ながら存続させていきたい」という意向が見え隠れする。

ツキジとトヨス

築地(中央区)は戦災を乗り越え、80余年もにわたって日本の生鮮流通市場における中心的な役割を担ってきた。場内場外を合わせた街そのものがブランドとなり、「Tsukiji」は海外でも名のしれた一大観光地となった。一方の豊洲(江東区)は90年代までは工業地として使用されていた地域であり、2000年代以降急速に宅地化、商業化が進み、今や東京を代表する高級・高層住宅街のひとつとなった。先駆的なライフスタイルの発信地だ。
銀座という繁華街からも一歩離れ、21世紀的な都市開発環境の隣へと引っ越しをする「日本の台所」。今後二つの街がどういった顔を持ち、東京という観光圏の中で個性を発揮していくのか、和食の中でも代表的な「Sushiカルチャー」がどうなっていくのか、将来に期待したい。

宇田川 藍

宇田川 藍ジャッグジャパン株式会社

投稿者プロフィール

1989年生まれ。幼いころ体験したユビキタス技術に興味をもち、大学では空間情報学を専攻(青山学院大学総合文化政策学部)。地理情報システム(GIS)を用いたエリアマーケティングの手法やオープンデータの利活用を、大手企業から政治の分野にまで幅広く提案している。
アート、ハイテク、街歩きが好き。

次の記事もおすすめ

ヘッドライン

編集部のおすすめ

ページ上部へ戻る