東海テレビ制作の映画『ヤクザと憲法』を観た。
まずは、是非とも予告編をご覧頂きたい。
取材は、大阪を本拠とする指定暴力団「二代目東組」の二次団体「二代目清勇会」を対象に行われた。半年以上に及ぶ密着取材により、映像素材は40分テープ500本にのぼるという。筆者は上映終了も近い3月中旬に都内のミニシアターで鑑賞したが、平日夜にも関わらず満席近い賑わいとなっていた。
取材クルーと構成員の、絶妙な距離感
赤裸々に映った事務所の内部、構成員たちの日常生活と喜怒哀楽、そして取材クルーとの談義……もちろんモザイクもピー音もない。それは「まるでその場にカメラがないような」場面の連続。ニュースで流れる暴力団関係の映像といえば、緊迫した場面ばかり。この映画で映る彼らの日常は、鑑賞者にとっては一見奇妙な「非日常」だ。この、あまりにも自然な姿を撮影できるような取材クルーの「練成力」の高さ、構成員や組長との素晴らしく絶妙な距離感と、垣間見える信頼関係には、全編を通して驚くばかりである。
例えばこんなシーンがあった。構成員Aが運転する車に乗せてもらい、寄り道と称して「何かを取引している(であろう)場面」を激写。本人が車中に戻ってきた際にはクルーが「あれ、何だったんですか?まさか、ク◯リの取引ではありませんよね?」と詰め寄るものの、「そんなわけないよ~」と車を出しながら笑って返すA。さらに「お金は受け取ってない?」と何度も食い下がる取材クルー。彼らの日常であり、我々にとっての非日常である。なんとも奇妙なかたちでエンターテイメントに昇華されているような、そんな評価もあろう。
「組」というひとつのコミュニティ
日々が淡々と過ぎていく中で、彼らの口からは徐々に「キーワードめいたもの」がこぼれ落ちてくる。
「俺は…選挙権ないねん。日本国籍やないからな」
「教育が、どんな人でも許容すべきと言うのであれば、理由をつけて社会からのけものにされるような人が居てはいけないと思います」
(写真を見ながら)「この頃は子供も生まれたばかりでね・・人生の一番いい時っていうやつですね」
「まず親分がおってな、これは若頭と言いまして、子の中の筆頭ですわな」
「座敷に上げて、風呂と寝る場所まで貸してくれたんですよ」
暴力団(ヤクザ)の需要、それは「擬似的血縁関係」とでも呼べばよいのだろうか。彼らにとって、なくす訳にはいかない「居場所」なのである。
「これな、わしら人権ないとちゃうの?」
作品はさらに、「反社という括りをされると、銀行で預金口座も開けない」「学校に手持ちで給食費を持っていくと、子供まで噂の対象になった」「自分の車両を凹ませただけなのに、保険金が支払われず、さらに恐喝容疑で逮捕までされた」など、彼らの日常における「欠けた(法律によって「奪われた」と表現する者もいるだろう)」部分にもフォーカスしていく。警察による事務所のガサ入れは、正直どちらがどちらか分からないほどに暴力的で横暴さも見える。
日本国憲法第14条――
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
さて、反社会的勢力という「括り」は、ヒトをヒトでなく、してしまうのだろうか?
末筆
「ヤクザは文化」などという高尚な批評もしてみたいものだが、本質的に「見た」「聞いた」「触れた」ことのない我が身からすると、そんな軽々しく言い切れるものでもないだろう、というのが第一の印象。また、人道的見地からすると先進国が最低限市民に保証すべきは平等な権利だが、それと同時に、市民同士がその権利を侵すことも許されないはずである。その意味において、恐喝や暴力的な行為を捨てきれず、古典的な絶対主義(絶対君主制)を継承する彼らに対して多くの市民が憂惧し、その対策(リスクヘッジとしての法整備)が進んできたという経緯も理解できる。
また、市民の憂惧を感じながらも社会で身を潜めながら活動している人々は暴力団関係者以外にもたくさんいる(はずだ)。例えば、狂信的に勧誘を行う宗教や悪質なねずみ講など…違った分野における「温床(コミュニティ)」もまた、語られるべき暴かれるべき存在、私達が直視すべき社会の一部分ではないだろうか。
話は戻るが、本作は筆者が学生時代に映画『時計じかけのオレンジ』を観たときに近い衝撃的な作品だった。気になる人は、お近くの劇場へ足を運んでみてはいかがだろうか。
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