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海外の政治動向 -緊張が高まるアメリカとイラン

最近の諸外国の政治情勢の中で注目すべきは、対立がエスカレートするアメリカとイラン、日本政府による韓国への半導体材料の輸出規制でさらに悪化する日韓関係、「逃亡犯条例」改正案をめぐって大規模な抗議活動が起きた香港、メイ首相の後継者を決めるイギリス保守党の党首選である。

アメリカとイラン

アメリカとイランの対立がエスカレートしている。対立が激しくなった発端は、トランプ大統領が就任後にイランとの核開発合意を一方的に破棄したことにある。その後、マイク・ポンペイオ氏やジョン・ボルトン氏らイランに対して強硬な主張を続ける保守派が政権の中枢に入った結果、同国への経済制裁が強化され、ペルシャ湾に空母が派遣されるなど軍事的な圧力も強まっている。一方で、イランもこうしたトランプ政権の外交姿勢に激しく反発し、核合意の上限を超えたウラン濃縮を始めた。トランプ大統領がイランに対して強硬な態度を取るのは、核合意というオバマ政権の功績を否定したいことと再選に向けて共和党保守派からの支持をより強固したいことが背景にあると考えられる。それゆえトランプ氏自身はイランとの軍事衝突は望んでいないようであるが、場当たり的な対応が多いと指摘されるトランプ政権ゆえに、偶発的な軍事衝突が生じそれが事態を悪化させる可能性は否定できない。

日韓関係

日本政府は7月4日、韓国向けの半導体材料輸出の優遇措置を停止することを発表した。今回の「規制強化」措置は、徴用工問題への勧告の対応に対する事実上の報復措置として捉えられ、韓国社会では大きな衝撃が走っている。半導体は韓国の基幹産業であるゆえに韓国国内では経済への影響が懸念されている。一部で日本製品の不買運動が起きているものの、文政権の失策だとして政権を批判するマスコミの論調が多いことは注目すべきである。文政権の支持率は50%を切り、与党の共に民主党と野党第一党の自由韓国党の支持率の差も縮まってきている。一方、日本国内では、外交問題の解決のために無関係な貿易をカードにして使った、今回の報復措置の効果は限定的であり中核的支持層である保守派・右派層に対してアピールするための参議院選挙用キャンペーンにすぎないとの批判もあるものの、文政権の徴用工問題への対応への反発や安倍政権への高い支持率を背景に政府の方針へ反対は少数にとどまっている。

しかしながら文政権に関しては、北朝鮮との関係改善ばかりに目が向いていると外交政策の稚拙さが散々指摘されているにもかかわらず、親北的な支持勢力の政治志向もあり基本方針を簡単に変えるとは思えない。双方が感情的な報復合戦を繰り広げると日本の企業活動へ影響が生じる懸念があり、また韓国からの訪日観光客が大幅に減少する可能性もある。現在の日韓の政府間関係は最悪であるが、一部を除いて一般国民の間では関係が悪化しているわけではない。日韓の政権とも、感情的な対応は自身の支持勢力には歓迎されるかも知らないが国民の多数派の利益に繋がらないことをよく理解すべきだろう。

香港

香港では、同地で身柄が拘束された容疑者の身柄を中国本土へ移送することを可能にする「逃亡犯条例改正案」に反対する市民らによる大規模な抗議活動が断続的に続いている。市民が同条例に反対しているのは、同条例により、中国政府に批判的な言動を行った人物が虚偽の容疑により拘束され、共産党により司法がコントロールされている中国本土へ移送されるようになることを懸念しているからである。

高まる抗議活動を受け、親中派の林鄭月娥行政長官は「改正案は既に死んだ」と述べ、審議を再開させる見通しがないと発表した。しかし「完全な撤回」を言及したわけではないので、今後も抗議活動は続いていくだろう。

同条例案は、来年1月に行われる予定の台湾総統選挙にも影響を与えている。中国からの独立志向が強い民主進歩党の蔡英文総統は就任後から対中関係の悪化から低支持率に喘いできた。しかし一連の香港のデモを受けて台湾国内における中国への警戒意識が高まった結果、蔡氏は民進党内での総統選予備選に勝利し、さらに野党国民党の有力予定候補者たちにも支持率でリードしているとのことである。中国政府が香港政府を通じて香港市民へのコントロールを強めるほど蔡英文総統の再選確率が高くなるため、中国政府は総統選挙が終わるまではあまり動かないかもしれない。しかし、総統選挙後にはまた香港、さらに台湾に対する圧力を強める可能性は十二分にある。

イギリス

5月24日に保守党党首の辞任を表明したメイ首相の後継を選ぶための与党保守党の党首選は、EUからの強硬離脱派として知られるボリス・ジョンソン前外相と元残留派で現在は穏健離脱派の立ち位置にいるジェレミー・ハント現外相の二人に候補が絞られた。郵送による投票の最終結果が発表されるのは7月22日になり、勝者が次期首相に就任することになる。資質について数々の批判を浴びているにも関わらず、ジョンソン氏が大幅にリードしているのが現在の

情勢である。ジョンソン氏が首相になれば合意なき離脱のリスクは大幅に高くなるものの、下院議席650のうち、保守党は過半数を下回る312議席、閣外協力をしている民主統一党は10議席、野党は合計319議席と僅差である上に、保守党内には残留派を明言している議員が7名いる。仮にジョンソン氏がドラスティックな行動をとり、それに対して野党が内閣不信任案を提出した場合、可決される可能性がある。そうすると解散総選挙になり、まだまだイギリス政治の混迷は続きそうである。

鈴木しんじ

鈴木しんじ慶應義塾大学SFC研究所上席所員

投稿者プロフィール

1972年生まれ、東京都中野区出身。東京工業大学博士(理学)。
東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒、東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程修了。専門は政治経済学、公共経済学。
個人ホームページ https://www.suzuki-shinji.net/

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