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「裁量的な議会解散」で敗北したメイ首相

先日行われたイギリスの総選挙で、メイ首相が率いる保守党は前回の議席を12下回り過半数割れとなった。北アイルランドの少数政党である民主統一党の協力を得て何とか過半数を得るとのことだが、メイ内閣はすでに死に体だという声もよく聞かれる。

メイ首相が率いる保守党は議会下院で単独過半数を占めていたが、メイ氏はEU離脱交渉を有利に進めるために野党労働党の支持率が低いうちに解散を行って選挙で大勝し、政権基盤を強化しようと考えていた。しかしながら今回の結果は、議会解散という賭けが失敗に終わったことを示している。イギリスではこうした首相による裁量的な解散を防ぐために2011年に議会任期固定法が制定されたはずなのだが、議会下院自体による自主解散の議決(下院の定数(欠員を含む)の3分の2以上の賛成)があった場合は、解散が認められる(同法2条1項)。今回の解散はこの仕組みを使ったものであるが、議会任期固定法が有名無実だったことを示したといえる。正直、私はこのような形でイギリスの下院が解散されうると思ってもいなかったので自分自身の勉強不足を反省したいが、それはともかくとして、今回の解散は法の不備が招いたといえよう。

イギリスでも日本でも、議会の任期中の解散が可能な場合、野党は常に議会の早期解散を求めるものである。なぜなら、仮に首相が議会の解散を考えているのに野党第一党党首が解散を批判したら、党内から弱腰との激しい批判を受けるのは目に見えているからである。日本でも、内閣が衆議院を解散すれば野党はそれを歓迎するのが通例である。それゆえ、内閣が議会に解散の許可を求めれば解散が実現するのは当然の成り行きであったといえよう。ところが、解散の結果がどの政党も過半数を取れないハング・パーラメントなのだから、今後は議会任期固定法の2条1項の内容に批判が高まることが予想される。

このように内閣の都合のために解散権が乱用される状況は望ましくなく、日本においても内閣の解散権行使の是非については論争がある。日本では、衆議院で内閣不信任決議案が可決されるか信任決議案が否決されるかした場合にそれに対抗する手段として内閣が衆議院を解散することは「対抗的解散」と呼ばれ、それ以外のケースで解散することは「裁量的解散」と呼ばれる。日本国憲法の条文に直接的に裁量的解散を認める条文が存在しないこともあり、そもそも裁量的解散が憲法上認められているかについて未だに議論がある。しかしながら、なぜ裁量的解散が認められうるのかと言えば、安定的な政権運営が不可能になった時の対抗手段として内閣に解散を認めるべきだという考えがあるからである。

筆者は、裁量的解散は認められるべきではないという立場であるが、その代わり個々の首相は安定した政権運営が行える環境が与えられるべきだと考える。民進党の枝野前幹事長などは憲法改正の論点として内閣の解散権行使の制限を挙げているが、これに関しては衆参両院制の抜本的な改革とセットで行われるべきであると主張したい。

それでは、そもそも安定的な政権運営が行える状況とはどのような状況であろうか?これは一言でいえば衆参両院で与党が過半数を確保している状況だと言える。衆議院で与党が少数であることが政権運営の弱体化につながることは明らかであるが、日本の場合は上院ともいえる参議院の権限が諸外国と比べてもかなり強く、参議院で野党が多数派を占める場合は与党が衆議院で2/3以上の議席を持っていない限り野党が反対する法案を通すことはできない。自民・民主いずれの政権時においても、参議院で多数派を形成できなかった福田康夫・麻生・菅・野田の各内閣は短命に終わった。

次に、与党が衆議院または参議院において少数にならないようにするにはどうすれば良いかを考えてみよう。衆参両院制が存続することを前提とすれば、(1)衆議院の比較第一党に両院において自動的に過半数となる議席を保証する、(2)衆参の議決が異なった場合は衆議院の議決を優先する、(3)衆参の議決が異なった場合は衆参両議員全員で構成される合同会議を開催しその多数決を国会の意思決定とする、などが論理的に考えられよう。(2)と(3)は憲法の改正に踏み込む話である。(1)は先日提案した多数派プレミアムつき比例代表制などを導入すれば実現可能なので、(2)と(3)より実現に向けてのハードルは低いといえる。なお、(3)については、参議院の定数が衆議院の半分なので、衆参対等と考えるならば参議院議員の票数に2倍の重みづけをするなどをしてもよかろう。

上記は主に選挙を経て内閣が形成される際に内閣の安定性を確保しようという話であるが、これとは別に当初は与党が両院で過半数を維持していたのに政党の離合集散などによって少数内閣が生じてしまうことも考えられる。この場合は、野党から内閣不信任案が提出されそれが可決されたとしたら内閣は「対抗的解散」を行えばよい。それでも「ハプニング解散」、「加藤の乱」や「菅おろし」の時のように、首相と対立した与党議員の一部が、次の政権への明確な構想なしに野党の提出した不信任案に同調することが起きるかもしれない。このような状況を防止するには、ドイツのように「内閣不信任案の提出は次の首相が議会で指名された時のみとする」建設的不信任制度を採用することが方法の一つとして考えられる。また、かなり乱暴な話ではあるが、内閣が少数内閣になった場合や新しく内閣を形成しようとする際は、「一定の期日までに衆参両方で与党が多数派を形成できない場合、衆議院の比較第一会派以外のすべての会派に属する議員が議席を失う」などと憲法上で規定すれば、野党にも政権に参加するインセンティブが生じるので、少数内閣自体が生じにくくなるであろう。

以上のように、議会制度の側面から少数内閣やねじれを生じさせない制度改正を考えてきたが、仮にそれらが実現したとしても、今回のメイ首相の下院解散のように抜け道を見つけて恣意的な解散を行おうとするケースは出てくるだろう。前述のドイツにしても、連邦首相に対する信任決議が否決された場合は連邦首相が連邦議会を解散できると規定されていることを逆手にとって、時の首相がわざと与党議員に信任決議の採決を棄権させるなどして解散に持ち込んだ例が過去3回もある。正に「いたちごっこ」ともいえるが、裁量的解散の禁止と、首相の任期中は与党が衆参両院で多数派を形成できるようにする制度改正はセットで考えるべきであり、できるだけ抜け道がないように十分な検討がされるべきある。

首相の解散権のあり方を再考することも、首相の権限や選出方法などと同様に統治機構改革の一環である。特に野党は、安倍政権に対して権力乱用との批判を繰り広げてきた以上、首相や内閣の権限についてどこを強めてどこを弱めるべきか、また現行憲法下の法改正でどこまで対応できるのかについて主張を明確にすべきである。現行憲法でできない部分については、民進党は安倍政権下での改憲には反対だとしても改憲そのものに反対ではない以上、党としての見解をまとめるべきであろう。

鈴木しんじ

鈴木しんじ東京工業大学リベラルアーツ教育研究院非常勤研究員

投稿者プロフィール

1972年生まれ、東京都中野区出身。東京工業大学博士(理学)。
東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒、東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程修了。専門は政治経済学、公共経済学。連絡先はinfo@suzuki-shinji.net (@は半角に書き換えてください。)

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