地方公務員である佐賀消防署の男性副士長が、約7千万円の賃貸収入を得ていた問題が波紋を呼んでいる。公務員の兼業禁止規定によるものだが、公僕たる公務員が不動産を賃貸に出して収益を得て良いのかという問題のほか、法律の不備を指摘する声もあがっている。
この問題は、佐賀新聞が詳細を報じている。今年1月に佐賀県消防局が「兼業を禁止する地方公務員法に違反したとして副士長を減給10分の1(3カ月)の懲戒処分」を下しているものの、その後改善命令に従わなかったという流れだ。
佐賀消防署予防指導係の男性副士長(44)が約7千万円の賃貸収入を得ていた問題で、佐賀広域消防局が6カ月以内に賃貸収入を人事院規則に沿って減らすよう指示した改善命令に、副士長が従っていないことが9日、分かった。佐賀広域消防局は追加の懲戒処分を検討している。消防局は今年1月、兼業を禁止する地方公務員法に違反したとして副士長を減給10分の1(3カ月)の懲戒処分とした。マンション4棟、貸店舗2棟、駐車場3カ所など15件を佐賀市内外に所有しており、7月19日までに個人名義の物件を規則で定められた5棟10室、駐車台数10台未満、賃貸収入500万円以下に減らすよう命令していた。(佐賀新聞/平成28年8月17日)
そして、その2週間後に、本人は懲戒免職処分となった。
兼業を原則禁じる地方公務員法に違反し、約7千万円の賃貸収入を得ていたにもかかわらず、改善命令に従わなかったとして、佐賀広域消防局は31日、佐賀消防署予防指導課の男性消防副士長(44)を懲戒免職処分にした。消防局によると、副士長はマンションや貸店舗、駐車場など計12件を佐賀市内外に所有。同局は今年1月、7月19日までに人事院規則に沿って、個人名義の物件を、5棟10室、駐車台数10台未満、賃貸収入500万円以下に縮小するよう命令していたが、期限を過ぎても改善が認められなかった。副士長は聞き取り調査に、「損をしてまで売るつもりはない」「兼業を禁じるのは時代に合っていない」などと話している。田原和典消防局長は「法を守り、住民の模範となるべき公務員が不祥事を起こし、誠に申し訳ない。一日も早く市民の皆さまの信頼を回復できるよう、高い倫理観を持って職務に専念していく」と述べた。(佐賀新聞/平成28年8月31日)
地方公務員の兼業禁止とは、具体的にどういうことか。まず、地方公務員の兼業禁止規定は地方公務員法第38条に規定されている。
(営利企業等の従事制限)
第38条 職員は、任命権者の許可を受けなければ、営利を目的とする私企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利を目的とする私企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない
新聞報道などを読む限り、個人名義の物件について書かれた文章があるため、法人を有していたかどうかを問わず、個人名義で有している物件の賃貸収入を今回は問題視していると言えよう。新聞報道にも取り上げられている「5棟10室、駐車台数10台未満、賃貸収入500万円以下」とは、人事院規則によるもの(条文はこちらで読める)だが、これ自体が古くさい規定ではないか、との指摘がある。
地方公務員には、このほかに「職務専念の義務(地公法第35条)」があり、精神的・肉体的な疲労などにより、本業に支障が出ないようにする為に制定されている。不動産を賃貸に出して収入を得る場合でも、管理業務は委託しなければならないのはこの規定によるもので、自ら管理業務を行うことは「職務専念の義務」を怠っていると見做される。ただし、今回の新聞報道を読む限り、こちらの条文に引っかかったという記載はない。
この規定、公務員の職務専念と同一の概念とはいえ、法律の不備があるのでは、という見方も少なくない。まず第一に、例えば親の遺産を継承した場合、自らの意思によらず賃貸物件を「取得」する可能性があることだ。自らが公務員であることを理由として、遺産相続を放棄することは考えにくく、またそのタイミングで売却を強いることが法の要求するところかというと、必ずしもそうではないだろう。
そもそも、「公務員が多額の不動産収入を得ているから問題だ」という考え自体がおかしいのではないだろうか。「多額の不動産収入を得ている人が、危険を顧みない公僕の典型たる消防士を務めている」のであれば、むしろ問題なのは法律ではないか、ということだ。もちろん、地方公務員法第35条に規定する「職務専念の義務」は守らなければならないため、「その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事」していたことが条件にはなるものの、今回のようなケースが、上記報道に書かれているような「不祥事」とされるのは、多くの国民にとって納得のいかないところだろう。
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