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リニア中央新幹線から見るパッケージ型インフラ輸出の問題点

東京‐名古屋‐大阪間を結ぶ予定のリニア中央新幹線は、東京‐名古屋間が2027年に先行開業、名古屋‐大阪間が2045年に開業の予定だったが、大阪延伸について政府が財政投融資を活用して資金援助することから、最大で8年前倒しされるかもしれないとのことである。確かに名古屋開業と大阪開業の間が15年もあれば、その間に在阪企業の東京移転が加速度的に進む可能性がある。それを考えると大阪開業前倒しは喜ばしい話に思える。

しかしながら、リニアモーターカーというプロジェクトは国内においても、また海外への輸出面においても採算性・将来性に疑問を持つ人が多いプロジェクトである。筆者はリニアモーターカーが「21世紀のコンコルド」にならないことを祈ると共に、建設に重大な問題が発生した場合には、ルートの変更(決定された南アルプスルート以外のものに変更)や、既存の新幹線方式への変更を速やかに検討すべきだと考える。今さらの話ではあるが、個人的には大前研一氏がかつて主張したように、中央新幹線は既存の新幹線方式を採り中央本線と同じルートで建設するのが妥当だと思う。大前氏の主張に興味がある方は参照していただきたい

リニアモーターカーの長所は速度が速いことだが、欠点としては①既存の鉄道と乗り入れができない、②建設費用が既存の新幹線と比べて割高になる、③莫大な電力を消費することが挙げられる。①に関しては、フランスのTGVやドイツのICEが優れており、高速鉄道技術の輸出競争においてメリットとなっている。②に関しては、JR東海は超電導リニア方式だと新幹線方式の1.3倍程度の費用になるとしているが、これは相当甘い試算だろう。さらにそれについては、建設に困難が予想される南アルプストンネルを経由する南アルプスルートを採用した場合に、もっとも建設費用が安くされていることにも疑念を抱かざるを得ない。建設から開業後50年間の総費用を考えた場合、最低でもリニアの方が新幹線の倍はかかると覚悟する方が現実的だろう。③に関しては未確定部分が多いが、JR東海が採用する超電導リニアでは電力消費量が既存の新幹線と比べて3倍程度に膨れ上がるとの予想もある

すでに東京-大阪間では新幹線と飛行機の利用比率は85:15であり前者が後者を圧倒している。それゆえに、リニアモーターカーを東京-大阪間で開業させたところで、JR東海の業績が劇的に向上するとは思われない。JR東海、そして政府が(超電導)リニア建設を急ぐ本心はリニアをパッケージ型インフラ輸出の目玉商品の一つにしたいということなのであろう。すなわち、既存の新幹線がフランス・ドイツ・中国などとの熾烈な受注競争を勝ち抜かなければいけないので、次世代の技術を提供することによって優位性を確保したいという意図が見え隠れするのである。さらに、リニアが莫大な電力を必要とするならば、リニアと原発をセットにして輸出するということも考えているのかもしれない。

しかしながら、買う側からすればリニアは使い勝手が良い商品なのだろうか?まず日本のリニア中央新幹線が成功した実例を踏まなければ、建設費用・維持費用も十分に予想できないであろうから、リニアが少なくとも名古屋まで開業して十分な実績を積んでからではないと導入の決断はできないであろう。現時点で超電導リニアの輸出先として具体名が挙げられるのはアメリカぐらいであるが、仮に2027年に予定通り名古屋まで開業したとしても、5年くらいの経過を見てから導入の是非を決定するとすれば、それは2032年以後になる。それは今から15年以上先の話であるが、その間に鉄輪式の高速鉄道も現行の平均時速280kmから最低でも300kmにはアップしていることが予想される

ここでリニアと鉄輪式の高速鉄道の比較となるのだが、リニア導入を計画している国において、在来線のレールの幅が各国の在来線および高速鉄道で最も多く採用されている標準軌(1435mm)だとしよう。在来線と同じ車幅のフランスのTGVやドイツのICEならば大都市の中心部に高速鉄道専用線を建設せずにすみ、さらに当該大都市に複数のターミナル駅が存在する場合でも、高速鉄道に乗りながら在来線を使ってそれらの駅に乗り入れることができる。距離が500kmある都市間を平均時速400kmのリニアモーターカーで結べば1時間15分程度、平均時速300kmの高速鉄道で結んだ場合には1時間40分程度かかる。それに対して、飛行機を使った場合、大都市中心部から空港までの移動時間や空港での搭乗手続きなどを含めて2時間以上かかるとすれば、この時点で飛行機より鉄道に優位性が生じる。25分の差のために大都市中心部に多額の建設費用をかけてリニア専用線を建設するよりは、在来線をつかって郊外や空港などにも乗り入れることができ、しかも安上がりな鉄輪式の高速鉄道を選ぶというのが合理的な選択ではなかろうか。

「官民共同でパッケージ輸出」というのは聞こえは良いが、リニアや原発のような巨大プロジェクトになると、失敗した場合、機会費用も考えれば経済的損失は莫大になる。そもそも巨額の建設コストがかかるので、参入障壁が高く市場メカニズムが有効に機能しにくい分野である。また、一度決めた以上は失敗しそうであっても後戻りしにくい性質のゆえ、Too big to fail問題の典型例になる可能性がある。経産省などは自らの存在意義もかけてパッケージ型インフラ輸出に熱心であるが、巨大な無駄遣いを産まないように我々国民は個々の計画の妥当性に目を光らせる必要があろう。

鈴木しんじ

鈴木しんじ東京工業大学リベラルアーツ教育研究院非常勤研究員

投稿者プロフィール

1972年生まれ、東京都中野区出身。東京工業大学博士(理学)。
東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒、東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程修了。専門は政治経済学、公共経済学。連絡先はinfo@suzuki-shinji.net (@は半角に書き換えてください。)

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