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道州制導入ならば都府県は廃止しなければならないのか?

あまり広く認識されていることではないのだが、野党第一党の民進党は道州制を推進する立場をとっている。旧民主党は道州制を含む統治機構改革に後ろ向きであったが、統治機構改革を党是としていた旧維新の党との合併によってスタンスが修正されたといえる。道州制導入にあたっては必ずしも憲法改正が必要ではないという見解が有力になっていることも一因であろうが、与党だけでなく野党第一党を含む多くの政党が道州制導入に推進の立場になったのである。それゆえに道州制導入の可能性は以前より高まったといえよう。

経済学的な観点からは、公共サービスの供給にスピルオーバー効果が発生しない範囲が政府の管轄すべき地域として適切であるといわれている。スピルオーバーとは公共サービスの便益が、給付を行った政府の行政区域を超えて発生することをいう。道州制導入の議論との関連でいえば、交通機関の発達等による人々の経済活動範囲の拡大と、それに対応する広域行政の需要という観点から、現行の都府県は手狭になっていると指摘されている。例えば、関東地方や関西地方(三重県の大部分を除く)においては、行政区分の「地方」と都市圏(東京大都市圏・京阪神大都市圏)とがかなり一致しており、インフラ整備や災害・治安対応など、多くの広域的行政分野について、単独の都府県よりも地方全体で取り組んだ方が効率的なのは明らかである。

それゆえ、道州制の導入と都道府県制度の廃止はセットとして主張されている。しかしながら、道または州(以後、州と呼ぶことにする)と市町村という二層制の地方制度に改正することは適正性を欠くとともに非現実的であり、国が財政移転を行う対象となる地方政府を限定した上で三層制に拡大する方がむしろ望ましいと筆者は考える。

基礎的な自治体である市区町村の平均人口は、平成の大合併を経てもいまだに約7万人である。しかしながら、国交省は全国を207の生活圏に分割しており(平均約60万人)、これをはるかに上回っている。それゆえに、市町村単位では生活圏レベルの行政需要に対応するのは厳しいであろう。例えば、各県の県庁所在地周辺は複数の自治体で一つの都市圏を形成している。こうした都市圏が各都道府県に複数存在する以上、生活圏または都市圏単位で取り組むことが妥当な行政サービスに関しては、巨大な州ではどうしてもそれがおろそかになるだろう。現状でも都道府県の出先機関として支庁や振興局などが置かれているが、管轄地域ごとに行った方が効率的な業務の一部を担当しているだけであり、それらについては知事や議会は存在しない。また、複数の都道府県または市区町村が行政サービスの一部を共同で行うことを目的として設置される組織として、広域連合というものも存在する。これはより緩やかなEU型の組織ともいうべき自発的に設立された地方公共団体であるが、全国的に設置が広がっているとはいえない。いずれにおいても、行政サービスの範囲が限定的であり、しかも直接的に住民のチェックを受けない存在である以上、都府県に代わるような役割を期待することは厳しいといわざるを得ない。

そうなると、①現状の都府県を残して権限を縮小するか、②都府県を廃止して、それよりは小さいレベルで市町村より大きい広域自治政府(首長・議会が公選である)を構築し、三層制の地方制度に変更することが妥当な改革案として考えられよう。実際に、三層制以上の地方制度をとっている国としては、アメリカ・中国など面積・人口が非常に大きい国のみならず、フランス・イタリアなど日本と国土面積が大差ない国々もあげられる。一方で、二層制から三層制への拡大となれば、かえって行政コストが拡大するのではとの懸念が生じよう。これに対しては、補助金・地方交付税など税制移転を行う対象とする地方政府を限定する(たとえば、国→州のみ、国→州と広域自治政府、国→州と広域自治政府)などして、財政移転の肥大化を防ぐ工夫が不可欠となる。

もう一つの懸念としては、州内の最大都市が州都になれば、そこへの一極集中がすすむことが予想される。現在、唯一「道州制が実現されている」北海道では、道庁所在地かつ最大都市である札幌への一極集中が進み、県単位への分割を求める動きさえ存在する。人口減少が進む一方で東京一極集中が依然として収まらない中、各地方において少なくとも一か所だけは発展する都市が存在するというのは否定すべきことではない。しかしながら、できるだけ一極集中がすすまないような制度設計をすることは重要である。対策としては、上記のように州の下に広域自治政府を設けることのほか、州都と最大都市を分けるというのが有力な手段であろう。これは国政に対しても同様のことであるが、実際にアメリカにおいては連邦政府の所在地(ワシントン)が最大都市(ニューヨーク)と異なるだけでなく、多くの州都が最大都市圏とは異なる地域に存在する。州行政に必要な設備の建設ということになれば、これもまた行政費用の拡大との批判を受けそうだが、一極集中を緩和するための補助金等の財政移転と、政治機能に特化した州都の建設費用とを比較し、冷静に判断することが必要であろう。

鈴木しんじ

鈴木しんじ東京工業大学リベラルアーツ教育研究院非常勤研究員

投稿者プロフィール

1972年生まれ、東京都中野区出身。東京工業大学博士(理学)。
東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒、東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程修了。専門は政治経済学、公共経済学。連絡先はinfo@suzuki-shinji.net (@は半角に書き換えてください。)

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