マイナス金利で、金融機関が預金からお金を差し引く可能性は
- 2016/3/12
- 特集記事
日本銀行が日本経済史上初の「マイナス金利政策」を適用させてから、間もなく1ヶ月。長期金利は過去最低となる「マイナス0.1%」を記録し、日銀の設定した金利と横並びになるなど、異常事態が続いています。株価や為替も乱高下が続いており、日本経済が落ち着く気配がありません。そんなマイナス金利政策が続く中で、「自身の預金口座がマイナス金利となり、預金が減っていくことがあるのでは」という声が再燃しています。
実際のところ、「たんす預金」をするための金庫が特需となり売れ行きが好調となるほか、比較的利回りがよいとされる百貨店商品券への積み立てなどが人気です。一方で、大手メガバンクは普通預金金利で0.001%、定期預金金利でも0.010%とこれまでにない低金利を提示しており、今後の動向によっては、口座にもマイナス金利が適用されるのでは、という不安が急速に高まっています。
では、個人の銀行口座にもマイナス金利が適用される日が来るのでしょうか。実は、「マイナス金利」とは異なるところに落とし穴がある可能性が出てきています。
山田誠一神戸大学大学院法学研究科教授と森下国彦弁護士が代表を務め、日本銀行が事務局を務める金融法委員会は2月19日、「マイナス金利の導入に伴って生ずる契約解釈上の問題に対する考え方の整理」と題するリリースを発表しました。この中で、「市中金利がマイナスとなった場合に、普通預金・変動金利定期預金などに適用される店頭表示利率としてマイナスの値を定め、その絶対値を用いて計算した金額を利息支払日に預金残高から差し引くことは、預金当事者の合理的な意思解釈によれば、できないと考えられる。」との解釈を提示していて、金融機関が店頭表示利率をマイナスにした上で、預金残高から利息を差し引くことは不可能であるということを表明しました。一言でわかりやすく言えば、金融機関が「マイナス金利」を預金口座に適用させて、利息として預金から徴収することは考えられないと言い切って良いでしょう。
しかし、「マイナス金利」が適用されなくても、預金口座からお金が減る可能性は残されています。それは、「手数料」です。銀行は、銀行口座の管理に伴う様々な手数料を徴収しています。一般的に最も馴染みがあるのは、「引出手数料」や「振込手数料」といったものでしょう。個人向けの口座であれば、「引出手数料」が平日に限って無料であったり、振込手数料についても同じ銀行間や金額によってはかからない場合もあります。また、個人の口座に適用されるケースは稀ですが、昔は大手メガバンクでも、銀行口座の預金残高が10万円以下であれば、口座維持手数料がかかるなどのケース(例:三菱東京銀行の「スーパー預金定期」)もありました。
「口座維持手数料」は実質的に日本の大手メガバンクでは廃止されているに等しいですが、例えばこの「口座維持手数料」を復活させるなどの方法は十分に有り得えます。事実、現在でもりそな銀行は、「最後の預入または払戻」から2年以上、一度も「預入または払戻」が無い普通預金口座について「休眠口座」として指定した上で、その「休眠口座」の残高が1万円以下であれば、年間1,296円の休眠口座管理手数料を口座から差し引いています。金融機関が「休眠口座維持手数料」を、例えば残高制限を緩くしたり、基幹制限を短く設定し直すことで、「休眠口座管理手数料」の増加、すなわち増収が期待できるでしょう。
また、スマートフォンの普及などに伴って、メガバンク各行が展開するインターネットバンキングなどのサービスも、今後見直されるかもしれません。そもそも企業向けのインターネットバンキングサービスは毎月1,000円以上の有料で提供されているものが多く、個人向けに無料で展開されているサービスについて、今後有料になる可能性も否定できません。さらに引出手数料や振込手数料も、今後いつまで現在の金額で据え置きとなるのかもわからず、こういった「手数料収入」の増収に向けて、急速に手数料の改定が進む可能性も残されています。
これら銀行の手数料に関する指摘については、既に国会で玉木雄一郎議員が黒田日銀総裁に質問しており、黒田総裁は「個人の預金金利がマイナスなることは考えてない」と述べる一方で、「手数料と預金金利の問題は別」と説明し、金融機関がマイナス金利による収益悪化の対策として、預金手数料を徴収する可能性を否定しませんでした。
地方銀行では銀行の合併などがすすむほか、サービスの変更なども予想されており、今後、金融機関の手数料やサービス内容がどのように変化していくか、必見となりそうです。
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